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大阪高等裁判所 平成12年(く)305号 決定 2000年11月11日

少年 I・A(昭和57.7.20生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人○○作成の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用するが、論旨は、原決定第2の各非行事実につき、自動二輪車を運転していたのは少年の友人Aであるのに、少年が自動二輪車を運転したと認定した原決定には重大な事実誤認があるので、原決定の取消しを求める、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討するに、自動二輪車を運転していたのが少年であるとする一番有力な証拠は、自動二輪車を追尾していたB警察官の「自動二輪車が停止し、左後方振り返ったとき、その運転手が少年であることがはっきり確認できた。」旨の供述であり、原決定はこの警察官の供述は信用できるというが、B警察官が運転手の顔を見たときの光源は追尾車両の前照灯(下向き)と自動二輪車のテールランプの灯りのみであるところ、記録中の写真によれば、少年とAの容姿、容貌には似かよったところがあると認められ、約3メートルという近い距離とはいえ、この灯りのみで、両者の容貌をはっきりと識別できたかどうか疑問が残り、実況見分調書には、車両運転席から約5.2メートルまでの範囲であれば、はっきり顔が見えるとの記載があるが、自動二輪車を追尾中に撮られたビデオテープには、自動二輪車が再び発進した後にB警察官と同乗者のC警察官との間で交わされた「I・Aやな。」「あれI・Aやっしょ。」「I・Aすね。」などの会話が録音されているところ、右の会話はいかにも自信なげで、振り向いたとき少年であることがはっきり確認できたという供述には、にわかに信じがたいものがある。少年宅ガレージを自動二輪車が出発した時点で、顔を確認できないまま、その運転手は少年であると思い込んでいたB警察官らが、右の時点でも容貌をはっきりとは確認できなかったのに運転手を少年であると確信してしまったのでないかとの疑いが払拭できず、同人の供述によって、自動二輪車を運転したのが少年であると認めることはできない。

次に、前記Aは、捜査段階においては、少年が自動二輪車を運転していたと供述している。同人の供述調書には、少年の自動二輪車の後部座席に同乗し出発したが途中でD宅に置いていた自己所有の原動機付自転車に乗り換えたと一見特異な状況についての供述があり、その供述は、B警察官の、一時自動二輪車を見失ったあと、「○△織物工場の脇から出てきた。」との供述と一致していること、また、どうして少年が運転したと供述をしたのか、その理由についても明確ではなく、この点だけを捉えればAの捜査段階の供述は十分信用できるようにみえる。しかし、同人を取り調べたB警察官としては、自動二輪車に二人乗りして出発したと思っていたのに、再発見したときは自動二輪車と原動機付自転車の二台に分乗していたことに当然疑問を抱くはずであり、しかも、失尾してから再発見するまでの経路の近くに少年らの友人D宅があることも承知していたB警察官が、失尾している間に少年らがD宅に寄ったのではないかと推測した可能性も否定できず、必ずしもAが供述しなければ捜査官に知り得ないような事柄とも断じがたい。他方、AがD宅に自己所有の原動機付自転車を置いたまま少年宅を訪れるというのもやや不自然であり、右供述調書中にはその点についての説明もない上、失尾してから再発見するまでの距離は約200メートルしかなく、その距離を追尾車両が進行する間にD宅に寄り原動機付自転車に乗り換えて再発見された場所まで至るのは、不可能とまではいえないものの困難と思われることなどの点からして、右Aの供述調書に、Aが少年の自動二輪車を(DがAの原動機付自転車を)運転して出発したとの、少年及びAの審判廷供述、当審提出のD供述を虚偽として排斥しうるだけの信用性を認めることができない。

少年の自白調書も、事件当日の14日後に作成されたものであるにもかかわらず、同乗者の有無や走行経路についてはなはだ曖昧な供述となっており、同様である。

その他、記録を精査しても、自動二輪車を運転していたのは少年ではなく、Aであるとの少年の弁解を十分排斥するに足るものは見出せないから、原決定第2の各非行事実を認めた原決定は事実を誤認したものと言わざるを得ない。

しかしながら、原決定第1の道路運送車両法違反の非行事実は認められるところ、少年は、その事実で検挙された後も修復せずそのまま放置した上、赤信号無視や合図不履行の違反を繰り返し、ナンバープレートがついてない本件自動二輪車をAに運転させるなど少年の交通法規無視の態度には憂慮すべきものがあり、原決定第2の各非行事実を除いても、少年を保護観察(交通一般)に付するのが相当であるから、右誤認は原決定の処分に影響を及ぼすものとはいえず、結局、論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項後段、少年審判規則50条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西田元彦 裁判官 杉森研二 川本清巌)

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